犬のてんかんガイド~原因・診断・治療・管理~

2025年12月20日 最終更新日
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愛犬のてんかん発作に備える実践ガイド。
発作時の対処、受診時に伝える観察ポイント、検査と治療の流れ、毎日できる管理法を分かりやすく解説します。
初めて発作を経験した方も、治療中でよりよい管理法を探している方も、愛犬の生活の質を守るための頼れるガイドとしてお使いください。

目次
  1. 犬のてんかんとはどんな病気?
  2. 犬のてんかんのタイプと原因
  3. 発作を見たときの対処と緊急基準
  4. 受診時に伝えるべき観察ポイント
  5. 診断の流れと主要検査
  6. 治療の基本と日常管理
  7. まとめと今すぐできる3つのこと

犬のてんかんとはどんな病気?

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てんかんは慢性的・反復性の発作性疾患で、脳内の神経活動の異常放電により生じます。

異常な電気活動を起こしている脳の部位に対応した様々な症状が出るため、全身のけいれんだけでなく短時間の意識低下、体の一部のピクつき、異常行動など軽度のものも含まれます。

単発の発作(反応性発作など)と繰り返すてんかん発作を区別することが重要で、てんかん発作の場合は薬物による長期的な管理が必要になります。

犬のてんかんのタイプと原因

てんかんは原因によって治療方針や見通しが変わります。主なタイプは次の3つです。

1. 特発性てんかん(遺伝性・病因不明)

6ヶ月〜6歳の若年・中年齢で発症することが多く、画像検査で明らかな異常が見られない。

国際獣医てんかんタスクフォース(IVETF)では、脳波で特徴的なてんかん性異常波が検出できれば診断の精度が上がるとしていますが、脳波検査を実施できる施設には限りがある。

遺伝的要因が関係する犬種がある。長期の薬物療法で発作コントロールを目指す。

2. 構造性てんかん(脳そのものの病変が原因)

脳腫瘍、脳炎、外傷後の瘢痕など脳の構造的異常が原因。
高齢犬に多く、MRIやCTで評価する。原因に対する治療と発作を抑える薬物療法を組み合わせる。

3. てんかんではない発作:反応性発作(代謝性・中毒性:全身の異常や外因が引き金)

低血糖、肝不全、腎不全、電解質異常、神経毒性のある薬物や有毒物質の曝露など、脳以外の全身性の異常によって一過性に発作が起きる。
抗けいれん薬の他、基礎疾患の治療が必要となる。

発症年齢、発作の型、既往歴、血液や画像検査の所見を総合してタイプを推定します。

発作を見たときの対処と緊急基準

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優先事項は犬の安全確保と発作の記録です。冷静に次のことを行いましょう。

安全確保と発作の記録

  • 周囲の危険物を取り除き、高所や階段から遠ざける。
  • 絶対に口に手を入れない。噛まれる危険と誤嚥リスクがあります。
  • 発作の開始と終了の時刻を確認して記録する。
  • 診断に有効であるため、可能なら最初の30秒〜1分、発作に気がついてからでも安全に撮影する。
    ただし安全確保が最優先で撮影を優先しない。
  • 発作が持続する、あるいは短時間に繰り返す場合はすぐに動物病院に連絡し、受診する

緊急受診の目安

  • てんかん重積状態:発作が連続して続き5分以上停止しない場合は緊急処置が必要。
  • 群発発作:24時間以内に複数回発作が起きる場合は早急に受診が必要。

発作が短時間で1回だけならまずは安全確保と記録で対応し、頻度や様子に応じて受診を検討してください。

受診時に伝えるべき観察ポイント

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獣医師が診断するうえで非常に重要な情報です。
受診前に以下を整理しておくと診察がスムーズになります。

  • 発作の開始時刻と終了時刻(持続時間)
  • 発作中の様子:全身けいれん・片側の運動・よだれ・失禁・呼吸状態・鳴き声など
  • 発作前後の様子:前兆の有無、回復にかかった時間、異常行動の有無
  • 服用中の薬の一覧と投薬開始日
  • 発作の動画や記録ノートがあれば持参または提示する

これらは診断の絞り込みと治療方針決定に直結します。

診断の流れと主要検査

てんかんの診断は以下の順に進みます。
①発作の再現性の確認
②全身性の異常の除外
③脳の評価

「何をまず除外するか」「脳に構造的問題があるか」「長期管理が必要か」を順に判断する作業です。

以下は各段階で行う主要検査と、その目的・検査結果が治療や方針にどう結びつくかをわかりやすく解説します。

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1. 問診と全身身体検査(初動)

  • 目的

    発作の性質を把握し、全身性の異常や中毒の有無を評価する。

  • 検査結果が示すこと

    全身疾患や中毒が疑われれば反応性発作を疑い、その治療を優先する。

2. 血液検査・生化学検査

  • 目的

    低血糖、肝機能障害、腎機能異常、電解質異常など発作を引き起こす全身性原因を除外する。

  • 検査結果が示すこと

    異常が見つかればその治療が第一選択となり、発作が二次的であったと判断されれば抗てんかん薬導入は慎重に行う。

3. 尿検査

  • 目的

    代謝異常や尿路感染など全身状態の補助評価を行う。

  • 検査結果が示すこと

    尿の異常は代謝性原因を示唆し、追加の血液検査や内科的治療につながる。

4. 神経学的評価(診察での局在評価)

  • 目的

    構造性てんかんの有無を判断するため、神経学的検査で発作が脳のどの部位に由来するか(局在性)を推定する。
    神経学的検査を実施し、反応の左右差や姿勢反応を評価する。

  • 検査結果が示すこと

    局在性が示唆されれば画像検査の優先度が高まり、局在性がなければ特発性てんかんの可能性が高くなる。

5. 画像検査(MRI/CT)

  • 目的

    脳腫瘍、脳炎、奇形、血管障害、外傷後変化などの構造的な病変を確認する。

  • 検査結果が示すこと

    異常が見つかれば構造性てんかんの可能性が高く、原疾患に合わせた外科的治療や内科治療を検討する。
    画像で異常がなければ特発性てんかんの診断が支持される。

6. 脳脊髄液検査(CSF)

  • 目的

    中枢神経系の炎症や感染を検出する。

  • 検査結果が示すこと

    炎症所見が出れば、感染症や自己免疫疾患が鑑別に加わる。
    感染症の可能性があれば抗菌薬など、自己免疫性の可能性があれば免疫抑制剤を使用する。
    異常がなければ感染性・炎症性の可能性は低くなる。

7. 脳波検査(EEG)

  • 目的

    脳の電気活動から発作性放電の有無や性質を補助的に確認する。

  • 検査結果が示すこと

    特徴的な所見が検出できれば診断の精度が上がるいっぽう、検査可能な施設は限られる。

8. 薬物血中濃度測定

  • 目的

    抗てんかん薬が有効濃度にあるかを確認し、効果不十分の原因を評価する。

  • 検査結果が示すこと

    てんかんを抑える効果が不十分で、濃度が低ければ用量調整を検討、濃度が高ければ副作用のリスクを配慮し、薬剤の種類の変更や投薬頻度の見直しを行う。
    長期管理で重要なモニタリング項目となる。

9. 特殊検査(感染・ホルモン検査等)

  • 目的

    初期検査や経過で示唆される特異な原因を精査する。

  • 検査結果が示すこと

    特定の感染や内分泌疾患が判明すればそれへの治療が優先され、発作管理方針が大きく変わる。

動物病院では「発作が起きている場合はまず動物の状態を安定化させ、迅速に除外できる原因を確かめ、次に脳の構造評価へ進む」という順序で治療・検査が進みます。
検査結果によっては外科的治療・免疫療法・特異的な内科治療など全く異なる方針が必要になる場合もあるため、段階的な検査を進めその結果を的確に解釈することが重要です。

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治療の基本と日常管理

てんかんの治療は、「発作ゼロ」ではなく「QOLを保ちながら発作を最小化」することが現実的な目標です。
薬の用量や組み合わせなどを工夫して、段階的な発作の減少を目指します。

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薬物療法

  • 抗てんかん薬は種類により効果、副作用、モニタリング項目が異なる。
  • 中断すると、発作再燃や重篤化の原因になるため、自己判断での中断は絶対にしないことが大切。
  • 投薬開始後は薬剤によっては定期的に血液検査で肝機能を反映する項目などを確認し、必要に応じて血中の薬物濃度測定を行う。

日常管理の実践項目

  • 決まった時間に投薬する。薬ケースやアラームを活用する。
  • 発作日誌をつける。日付・時刻・持続時間・状況を最低限記録する。
  • 発作の動画を残す。安全確保後に最初の30秒〜1分を撮影する。
  • 睡眠・食事・運動のリズムを一定に保ち、極端な興奮や過度の疲労を避ける。
  • ストレス要因や有害物質への曝露を避ける。家庭内の誤飲リスクを減らす。
  • 定期的に動物病院での診察と必要な検査を受ける。
  • 家族で緊急対応の役割分担と連絡方法を決めて共有する。外出時は投薬メモを携行する。

外出時の注意

  • 投薬の予備を持参する。
  • 預ける場合は投薬スケジュール、発作の特徴、緊急連絡先を明記したカードを渡す。

これらを日常に取り入れることで、薬物療法の効果を最大化し、突発的な事態にも冷静に対応できる体制を整えられます。

まとめと今すぐできる3つのこと

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てんかんは飼い主と獣医師が連携して管理することで生活の質を維持できます。
まずできる次の行動を行うと良いでしょう。

  • 発作が起きたら安全確保の上で動画で記録する。
  • 今日から発作日誌を用意して記録を始める(手帳でもいいですし、スケジュール管理アプリの利用もいいでしょう)
  • かかりつけの動物病院と「受診が必要な発作の程度や頻度などの目安」と連絡方法を確認・共有する。

これらを行うことで飼い主さん自身の不安を軽減し、愛犬のQOLを守る力になります。

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監修者プロフィール
監修者:獣医師、福地かな
獣医師|福地かな

獣医学部を卒業後、東京都内の動物病院で犬猫の診療に携わりました。その後、外資系製薬企業のメディカルアフェアーズ部門でMSL(Medical Science Liaison) として活動。
現在は動物病院での臨床試験や、製薬企業・ペットフード業界での業務を通じて培った知識をもとに、犬猫の「もしも」に備える中毒対策を、化学的根拠に基づきつつ、獣医師の視点でわかりやすく発信しています。